本の沼 サッカーの森

本の沼にはまり、サッカーの森を彷徨う

『バルセロナが最強なのは必然である』 

サッカー本 0001

 

バルセロナが最強なのは必然である』  

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著 者 オスカル・P・カノ・モレノ

訳 者 羽中田 昌

発行所 カンゼン

2011年9月13日発行


「サッカーの本質とは」という難しい命題がブログのコメントに登場したので、第1回として以前に綴った文章(2011.10)を載せる。
 
高校の大先輩、現在韮崎高校サッカー部コーチの羽中田昌さんが翻訳本を出版しました。

個人的にはサッカー関連の本で久しぶりにヒットしました。サッカーを難しい観点から語っています。バルセロナのチームを分析しながら、サッカーを観る目、切り口を新しい観点から考察しようとする画期的な本だと思います。

 

まず従来のサッカーを判断する思考方法を完全否定します。サッカーを「古典的パラダイム(枠組)で捉えてはいけない』と提唱します。古典的なパラダイムとは、フットボールの世界にも確実性が求められるようになり、「機械論」の影響を受けてきたとあります。「機械論」のほか、「還元論」「決定論」「デカルト心身二元論」「ニュートンの機械論」「ラッセルとウィットゲンシュタインの原子論」の影響により、無意識にサッカーを観る目、思考法が(悪い意味で)定着してしまったとのことです。

難しい話のようですが、サッカーのプレーに当てはめると「フム、フム、なるほどそうだな」と非常に理解しやすくなります。より身近で具体的なサッカーを例にして学校の先生が話をしてくれたならば、理数系が嫌いにならなかったのになと思ってしまいます。


従来のフットボールの原則から解き放たれた思考とは、フランスの哲学者エドガール・モランの「体系的で複雑な思考」の原理を提唱しています。以前にも読んだ本の内容と重なりますが、「サッカーは複雑系である」ということです。
この視点からサッカーを考察すると「組織化の原理」「ホログラムの原理」「フィードバックループの原理」「再起性の原理」「自己組織化の原理」その他、「ディアロジック、知の導入、補完性、進化の可能性・・・」と展開していきます。

しかしバルセロナのサッカーを分析しながら進むので、非常に分かりやすいです。具体的には「バルセロナの守備は攻撃の時から始まっている」とあります。ファンタジスタ、10番の消滅など、攻守を切り離して考える切り口は過去のものだと分かります。

ちょっと脱線しますが、本の中で「果たして、フットボールの世界における知の所有者は誰なのでしょうか?」とありました。その答えは未だ決まっておらず、解決しなければならない問題だとあり、非常に興味が沸きます。

このような本が日本にも翻訳され、私たちの手元に気軽に来る時代になりました。サッカー界ではヨーロッパに学ぶべきことがまだまだたくさんあります。もちろん商業的な展開をすることは悪いことではありませんが、本質的なサッカーの考察を追い求める本の出版も必要不可欠だと考えます。
そういった意味では、株式会社カンゼンの出版物はサッカー関連の本は充実しているのではないかと思います。

秋の夜長、「読書の秋」の一冊として是非読んで欲しいなと思います。